囃子で跳ねる、ということについて

この記事は「青森ねぶた祭り Advent Calendar 2015」の12月24日分として書きました。

私は「跳人」としてねぶた祭りに参加しています。ねぶたの運行を構成する要素は主に3つあって、1つ目がねぶた本体、2つ目がお囃子方、そして3つ目が跳人になります。ねぶたの前で、派手な格好をして「ラッセーラー」という掛け声をかけながら跳ねているのが跳人です。

1. 跳人になる

これが跳人の正装(私です)。浴衣には鈴をたくさんの付けます。腰巻やたすきの色は他の組み合わせもあります。花笠はかぶらない人も多いです。
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ねぶたの曳き手や囃子方と違って、跳人になるのは簡単です。衣装を着て、あとは会場に行くだけ。正装さえしていれば誰でも参加できるのが跳人の特徴です。地元の人でなくてもOKです。衣装のセットは青森市内で数千円で売っているほか、レンタルもあります。

跳ね方は、「ラッセーラー」の掛け声に合わせて、片足で2回ジャンプし、次に反対の足で2回ジャンプします。あとはその繰り返しです。掛け声をかけながらひたすら跳ねます。跳ねまくります。青森の場合は、時間にすると1時間50分、運行コースをぐるりと1周、跳ねながら進みます。単純ですが、それ故にアドレナリンが出まくって完全燃焼できます。

跳ねます。踊るのとは少し違うので、「跳ねる」という表現が適切です。
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ここまでが跳人の基本です。これだけでも十分以上に楽しいのですが、今日のテーマは「囃子に合わせて跳ねる」ということです。

2. 何が問題か

盆踊りをはじめとして、囃子があるお祭りでは、踊り手はその音に合わせて踊ります。しごく当たり前のことで、青森ねぶたの跳人も本来はそれが正しい姿です。しかし、実際に青森に行ってみると囃子に合わせている跳人なんてほとんどいません。囃子のリズムとは関係なく、好き勝手に「ラッセーラー」の掛け声をかけて跳ねています。

跳ねている方はそれでも十分楽しいのですが、見ている方としては、跳人がバラバラに騒ぎ立てているようにしか見えません。盛り上がっているのは確かですが、はっきり言って見栄えはよくないです。青森ねぶた祭りは「ねぶたと囃子、跳人の三位一体」とよく言われますが、残念ながら現状はそのようになっていません。

ところが、これは別に跳人が合わせないから悪いという単純な問題ではないのです。そもそも、現代の跳人の大多数は、囃子に合わせて跳ねるという跳ね方(通称「囃子跳ね」)を知りません。格好いい跳ね方があるということも知りません(極端に言えば、ケンケンだと思ってます)。囃子に合わせて跳ねるという文化そのものが廃れてきてしまっているのです。

3. それでも囃子で跳ねたい

しかしたとえ少数派だとしても、私は囃子で跳ねたい。ねぶたと並んで、囃子も迫力があって素晴らしいのです。そんな素敵な囃子があるのに、それを無視して跳ねるなんてあり得ない。

そんな感じで囃子で跳ねる魅力にとりつかれて、気が付いたら10年経っていました。10年もやっていたら、同じように囃子で跳ねたい仲間たちとたくさん知り合いました。

囃子に合わせて跳ねるとどうなるのか。こうなります(2分40秒くらいから)
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いや、嘘です。これはパレードなので状況が特殊すぎます。でもこのミスター跳人(私ではないです)の跳ねっぷりをみてください。つまり格好いいのです。

運行中だとこんな感じです。青森ではなく六魂祭の動画ですが。
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30秒目くらいからが見どころです。

囃子も含めて、みんなの跳ねが揃ったときの一体感といったら、最高以外の言葉が出ないです。
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今では青森の地元の人が、青森出身でもない私に向かって「兄ちゃん、うまいね」と言ってくれます。「昔はみんなこうだったよ」と言ってくれるおっちゃんもいます。地元の若者が、私の跳ね方を真似ねようとしてくれたりします。囃子で跳ねることの良さを認めてもらえているようでうれしいです。

4. 囃子に合わせて跳ねるために

さて、ちょっとトーンと下げて囃子跳ねをやってみたいと思ったときにどうしたらいいかを書きます。先に書いたような事情があるので、青森で囃子に合わせて跳ねるには、ほんのちょっとしたコツが必要です。

位置取り
まずは囃子の聞こえる範囲に位置取りましょう。現在は多くの団体が跳人→ねぶた→囃子方の順番で隊列を組んでいるので、囃子が聞こえやすいのはたいてい跳人エリアの後ろの方です。前の方にいくと、前の団体の囃子が聞こえて混乱します。一部、跳人→囃子方→ねぶたの順番を採用している団体もあり、そういうところは囃子に合わせやすいです。

囃子を聞く
跳ねるときに、囃子の音をよく聞きましょう。一番リズムが取りやすいのは笛の音です。笛が聞こえない場合は太鼓の音を探します。

囃子のテンポに掛け声を合わせる
跳ねる前に、囃子のテンポに合うように掛け声を出してみましょう。声に出してみると、囃子のテンポが体に入ってきます。

囃子のテンポで跳ねる
テンポがわかったら、跳ねます。囃子のテンポは、(囃子に合わせない)普通の跳人の掛け声よりもゆっくりなので、高く跳んで滞空時間をかせいだり、着地のタメを作るなど、ちゃんと意識しないとうまく合いません。

5. 格好良く跳ねるために

最後に、囃子に合わせて格好良く跳ねるために押さえておくべきポイントを紹介します。

脚を上げる
腿を引き上げた方が、高く跳んでいるように見えて格好いいです。脹脛のバネと腿の筋肉を使って跳ぶイメージです。

腕を振る
上半身がサボっていると格好良く見えません。

腰を回す
腰をちゃんと回すと格好いいです。が、最近は腰はあまり使わないのが主流かも。

うまい跳人の真似をする
と、こんな理屈を聞いたところで分からないと思うので、実践あるのみです。会場に行ったらまずお手本にするうまい跳人を探します。見つけたら、その人の横に張り付いて真似をしましょう。跳ねる高さ、脚を上げる高さ、脚を蹴り出す方向、腕を振る角度など、細部までコピーするつもりでそっくり真似します。

私の場合、囃子で跳ねることに目覚めた頃に、脚の蹴り出し方と、腕をしっかり振るという、この2点を青森出身の方にアドバイスされました。
あとは、ずっと「うまい跳人の真似をする」を実践しました。青森でも、関東でも。一言でうまい跳人といっても、いろいろな跳ね方があります。それをがんばって真似るようにしている中で、自分なりの跳ね方ができてきました。
今はかなり我流が入っていますが、この経験のおかげで、他の人に合わせて跳ねるのは今でも得意です。

青森ねぶたの跳人は、誰でもなれるし、覚えなければならない複雑な所作もありません。ただ片足で跳ねるだけの単純なものです。しかし単純であるからこそ、一筋縄ではいかない奥深さがあるのです。