AndroidにおけるJava API使用の何がフェアユースではなかったのか

昨日の話の続きです。
nebuta.hatenablog.jp

Google翻訳に頼りながら判決文を眺めてみました。素人だし英語苦手なのでいろいろ誤解してるかもしれませんが、そのときはすみません。判決文の全文は以下に公開されています。
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-1118.Opinion.3-26-2018.1.PDF

前提

ソフトウェアのAPI著作権法の保護対象になるということは、2015年6月に最高裁判決が出ているので、残念なことですがこれはもう確定していました(正確には、2014年5月に控訴審判決が出て、Google最高裁に上告。翌6月に上告が棄却されて確定した)。

今回の争点は、「GoogleAndroidにおいてJava APIを無断流用したことがフェアユースにあたるか否か」です。米国の著作権法上は、フェアユースであれば著作権の侵害には当たりません。そこでフェアユースだとした地裁の判断に対して、Oracleが不服を申し立てたのがこの控訴審です。

4つの争点

フェアユースか否かの判断材料として、今回は以下の4つ要素がおもな争点として取り上げられています(各要素については後述)。

  • Factor 1: the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes
  • Factor 2: the nature of the copyrighted work
  • Factor 3: the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole
  • Factor 4: the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work

この4つのうち、Factor 1と4については"フェアユースではない"方向に、Factor 2については"フェアユースである"方向にそれぞれ有利で、Factor 3については中立的であると判断されています。

On this record, factors one and four weigh heavily against a finding of fair use, while factor two weighs in favor of such a finding and factor three is, at best, neutral. Weighing these factors together, we conclude that Google’s use of the declaring code and SSO of the 37 API packages was not fair as a matter of law.

(p.54)

ただし、Factor 2については"フェアユースバランシング全体に対してそれほど重要ではない"とも記されています。

The Ninth Circuit has recognized, however, that this second factor “typically has not been terribly significant in the overall fair use balancing."

(p.44)

これらを総合的に判断して、AndroidJava API使用については"フェアユースではない"という結論に至ったとのことです。

Factor 1: The Purpose and Character of the Use

簡単に言えば、AndroidJava APIを使っていることが商業的な性質が強いか否か、ということです。Oracleは、GoogleAndroidで莫大な利益を上げているから商業的だと主張していて、GoogleAndroidオープンソースだしGoogleの利益は検索エンジンによるものだからAndroid自体は非商業的だと反論しています。これに対して控訴裁では、商業的か否かはその利益が金銭的であるかどうかや、直接的に得られるものであるかどうかに依存しないので、Androidは商業的であると結論付けています。

それからもうひとつの大きな論点として、"transformative"であるか否かということも挙げられています。transformativeという用語をうまく解釈できなかったのですが、どうやら新しい価値を与えるような使用方法かどうかということのようです。Oracleは、Googleは単にAPIをコピーしただけだからtransformativeではないと主張していて、Googleスマートフォンという新しいプラットフォームを作ることが目的だったと反論しています。

地裁ではGoogleの"transformativeである"という主張は認められて重く評価されたようですが、控訴審にあたっては逆にGoogleの主張が退けられました。根拠としては、スマートフォンといえども同じAPIを同じ目的で使っていることに変わりはないことなどが挙げられています。

この控訴審にあたってOracleは、数千行のOracleJavaコードがAndroidでそのまま使われているという証拠を提出していて、これも地裁の判断を覆す大きな材料になったようです。

Factor 2: Nature of the Copyrighted Work

APIを設計という行為が創造的なものであるかどうか、という争点です。まず、コンピュータソフトウェア自体は、著作権法で保護されるべき対象という前提はすでに確立されています。そして、APIパッケージの宣言コードとSSO(Structure Sequence Organization)が著作権法の保護対象だということはすでに結論が出ています。

その一方で、APIの宣言とSSOの創造性というのは”最小限のもの”であり、APIというのは創造的な側面だけでなく機能的な側面も重要であることから、これを使用することはフェアユースであるというのがGoogle側の主張です。地裁ではこの主張が認められ、控訴審でも肯定的に判断されました。しかし前述のように、それ自体が全体に対してあまり重要ではないとされています。

Factor 3: Amount and Substantiality of the Portion Used

元の著作物の量的および質的な価値はどれくらいのものか、という争点です。これについては、開発者の負担を軽減するために、既存のAPIを流用するという行為がAndroidプラットフォームを作るにあたって重要であったことはGoogleも認めています。

Factor 4: Effect Upon the Potential Market

AndroidOracleが本来持っていたはずの潜在的な市場での価値をどの程度損ねたのか、という争点です。これは、フェアユースの「元の作品の市場性を著しく損なうことがないようなコピーに限定される」という考え方を反映したものだそうです。

Googleは、Oracleがデバイスメーカーではないことや、まだスマートフォン市場を開拓していなかったことなどを挙げて、AndroidOracleの市場を奪ったことはないと主張しており、地裁もそれを認めていました。しかし控訴審では、スマートフォンOracleの"潜在的な"市場であったことは疑いがなく、デバイスメーカーでないことも(自分で作らなくてもライセンス供与などの方法があるので)意味のない主張だという結論が出されました。

結局、APIはコピーしちゃダメなの?

これらの争点のうち、Factor 1/3/4については"Androidの場合"という前提での話であって、別のケースであれば違った判断がくだされる可能性もあるでしょう。要は、フェアユースと言い切るにはGoogleが儲けすぎていて、Oracleが進出して儲けられる可能性を奪ってるよね、という話です。Oracleの主張が認められた形ですね。

一方でFactor 2は、APIの宣言コードとSSOは(著作権法で保護されるべき)創造性を持っているけど、機能的側面も強いからフェアユース性もある、ということを認めています。ただし、それはフェアユースであるか否かを判断する他の要素に強い影響を与えるものではない、ということです。

もともとフェアユースかどうかは個別の事案で判断される性質のものなので、今回の判決だけですべてのケースが決まるというわけではありません。特に今回は、商業活動であるかや、潜在的な市場価値にどれだけ影響を与えたかということが決め手になっているので、この点が非常に大きな意味を持っていると思います。